行きたかった新聞社で、報道関係記者に。
在日のことは、自分の幅として見せることができた。

在日学生就活インタビュー
2011年1月15日

就職は報道関係記者。文系。男性。日本国籍。両親の片方が在日で片方が日本人。自分の意識は「日本人」で、「向こうの血を引いている」。就活は、2007年夏~2008年4月。メディア系に絞って就職活動、一番行きたかった新聞社2社のうちの1社に受かることができた。現在、就職一年目。事件・事故担当の記者として仕事中。

インタビュー中によく出てきた口ぐせ(?)は、「なんだかんだで」。

簡単な紹介

東京都出身。国立大学。父が在日2世、母が日本人。本人ははじめから日本国籍。自分は完全に「日本人」と思っている。と同時に、父親からのルーツ(「血筋」)のことは、なんとなく常々意識が向かうところではあった。

就活の頃までには、明確にメディア志望。面接ではよく、アルバイトで夜間の救急医療の事務をしていたことから、報道の問題につなげて話した。

就活で自分のルーツのことは特に言うつもりはなかった。新聞業界では多分差別はないだろうと思っていたが、逆に必然性もなく、そういうことを言うと、浅はかに思われるだろうから。

実際には、今勤めている企業の面接で、「関心のあるニュース」という形で自分のルーツも伝えている。バイトに関する話一辺倒になるのを避けるためと、多少他の人と差別化をはかる「戦略」という面があった一方で、差別的なことがないとは言い切れないと思っていたので、ちょっと「賭け」の気持ちもあった。

現時点で振り返ると、自分のルーツは、自分の行動のきっかけとして、就活でも良い方向に働いたと思っている。現在、赴任先では、記者として、地域の在日のことに関わる経験もしている。

【活動期間】2007年夏休みに、大手新聞社でインターンをしたのがはじまり。2008年4月に終了。
【就職先】大手新聞社の報道関係記者

記事のプレビューとして、インタビューの一部を紹介!

①新聞報道への志望動機

Q:「志望動機」は、どういうことを?

(救急医療の)現場はすごいギリギリのところでやっているけれども、当然限界があって患者を診れないことがある。それをいわゆる「たらい回し」とかっていう風に、すべて病院が悪いっていう風に捉えられるのは、非常に報道としては問題があるし。だったら、自分はそういう医療の現場のことをちゃんとこう伝えて流れをかえていけるようになれればと、みたいなことを偉そうに書いた(笑)。

②企業にとって、在日って「腫れ物に触る意識」じゃないか。

Q:民族名の在日とかに対して、差別があるかどうか、日本企業全般については、どう思いますか?

分かんないなぁ。でも日本企業はどっちかっていうと、なんとなく、腫れ物に触る意識はあるんじゃないかなぁ、と思うけどね。・・・ちょっと避けたほうがいいかもしれないっていう。1歩、「うっ」となる、イメージはあるんじゃないかな。でも多分、(在日なら)何が悪いかって突っ込まれたら、別に何も思い浮かばないとは思うんだよね。

③在日のルーツの影響のこと

Q:出自とか家族のことが自分に影響を与えたと思います?思ってないですか?

影響を与えてるよね。かなりの影響を受けてると思う、実際のところは。

Q:それは就活においても?

就活においても。

Q:それって、どういう影響?って言われたらどういう影響?

いや、でも幅が広がってると思うし。何かをするきっかけの一つではあるから、それは間違いなく。結果的に、この会社に入ってるわけだし。それを言ったことによってかどうかは知らないけど。まあ、こうやって今地域の在日の話とかにも関わってるわけだし。人にも出会ってるわけだし。

④今の職場のこと

Q:職場で、そうやってお父さんのルーツを知ってくれていることで、良いことってありますか?

んー、いいことっていわれたら、でもやっぱちゃんと、こいつはこういうのに興味があるっていうのを分かってもらえると、取材とかで、こんなのがあるっていうのを振ってもらえたりもするし。逆に、でも普段「だから」って言う話はないから、それはそれでありがたいよね。あくまでいい方向に捉えてもらってるっていう。

就活を始める前

メディア志望の背景

学部は文学部。一年生からしていたサークルは、バスケとスキューバダイビング。
メディア志望という方向性が出始めたのは、2年生の終わりぐらい。その頃、学内で授業のようなものとして展開されていた、メディアを勉強する集まりに、友人に誘われて入った。それから、なんとなくメディアを意識し始めた。色んな現場にもいけるし、文書も書けるし。

その集まりは、サークル活動と授業の間のような感じで、メディアを学びたい有志を集めた教育機関のようなもの。大学院の教授や、現場で活躍している社会人が講師で来て教えて、参加者は学生だけではなく、外部からの社会人などもいる。自分たちで報道を実践する活動もあった。この延長で、なんだかんだとやっているうちに、就活のときには業界をメディアに絞っていた。他の業界を研究する余裕がなかったこともある。

Q:じゃあそのメディアを勉強する団体で、わりと興味を育てていて、就活のときには、もうメディアに絞って?

あんまりねぇ、余裕ないからね。そんなに、あれこれ他の業界のことを研究してる時間もなかったし。

病院でのアルバイト

就活の頃までには、バイトを通じて、自分が関心をもっていた社会問題があったことからも、メディアを志望する気持ちは明確に持っていた。

「大学では何をしましたか」という企業の質問に対して、いつも話したのはそのバイトでの経験のことで、病院の夜間事務のバイトをしながら、見ていた「現場」のことについて話していた。当時、社会問題として話題にもなっていた、救急医療の問題に、現場から少し触れている人間として、当時よくあった「たらいまわし」という言い方に逆に問題があると感じていたので、マスコミを受けたときに、そのことを話した。報道の仕事への関心や志望動機を伝える話題として。

在日のことは別に言うつもりはなかった

就活を始めたのは、だいたいみんなと同じ時期だが、3年生の夏に、大手新聞社でインターンをしたのが、実質的なはじまり。
就活をする前は、就活では、親の片方が在日であることを、別に言おうとは思っていなかった。

Q:父親が在日だとか、就活で言おうと思ってました?

いや、あんまり表に出すつもりはなかったし。もしそれでなんかね、差別的なあれがあったら嫌だなとは思ってたけど。

Q:もし、そういうことを積極的に言っていく人がもしいたとしたら、損するっていうか、差別的なものがあるかなとは思ってました?

んー、まぁ新聞社とかはねぇ、どうだろうと思ったけど。そこには寛容な人が多いとは思ってたけど。
まあわざわざ出すものでもないし。逆にそれで浅はかにみえるかもしれないからね。何かそれに関してすごい勉強してきたわけでもなく、突然言うのも逆に良くないとは思ったけど。

就職活動の全体像

夏休みにインターンをした頃から就活が始まって、受験したのは、新聞社とテレビ局合わせて10社くらい。最終面接にも受かったのは、今働いている1社だけ。もともと行きたいと思っていたところのひとつだったので、就活を終了(4月末ぐらい)。良かった、もうこれで、休めるわ~という思いだった。

新聞が本当の志望で、テレビは練習で受けた。テレビは、興味も熱意ももっていないことが即伝わるのか、一次面接で全部落ちた。新聞のうち、インターンもいったし、先輩・知人が多くて、行きたかった、大手新聞A社は、上の方の面接のときに、面接官と話していて、相手の言っていることが、意味がわからなくて、なんか合わないなー?と思った。そのあたりで落ちた。
今勤めている企業の面接での面接官は、こちらの話に対して、めちゃくちゃリアクションが薄くて、やりづらい面接だった(笑)。

大学のバスケサークルなどで、中心的な役割を果たした面も一応あったけど、そもそも、真面目に練習して、楽しくやっていたというサークル話が面接でそんなに意味があるとも思えなかったので、面接でよく話した話題は、病院の夜間の救急医療に関わるバイトのこと。

当時社会問題化していた「たらいまわし」に関する話題だったので、現状の報道への問題意識として、自分が記事を書くならば、もっと病院医療の現場のことをちゃんと伝えたい。個々の現場の病院のぎりぎりの状態を伝えずに、病院側に全部問題があるとするような報道の流れをかえていけるようになれれば、といったことを(「偉そうに(笑)」)話していた。(詳しくは「面接での話題、面接で在日のルーツに触れたことについて」

自分自身の意識としては、自分のことは日本人だと思うし、日本国籍なので就活では関係ないし、名前も民族名など使ったこともない。なので、面接で自分が在日だということは言うつもりは特になかった。万一、差別的なことがあってもつまらないなと思っていたし、また、新聞業界ではそういうことには寛容で、差別はないだろうと思っていたが、逆に、言う必要もないところでそういうことを言うのは、考えが浅い奴と思われるかもしれないと考えていたから。

実際には、今勤めている会社の面接でだけは、在日だということを言う機会があった。「関心のある新聞記事は?」という問いについて書かされたときに、在日についての記事を取り上げて、自分の血筋にもそういうルーツが入っていることも書きながら、報道がどうあるべきと思うかにつなげて書いた。あえて自分のルーツの話をしたことには、病院医療の話ばかりだと思われたら嫌なので、他の話題を振りたいということと、他の人と差別化したいという狙いもあった。(詳しくは「面接での話題、面接で在日のルーツに触れたことについて」

志望はメディア

Q:一次面接は、何社くらい受けました?

何社くらいいっただろ。1,2,3...10社くらいかな、たぶん。

Q:全部メディアですか?

うん。

Q:じゃあ最初からもうメディア?

もうメディアだねー、なんだかんだで結局。

新聞が本命。テレビはすぐ落ちた。

Q:新聞社に絞ってたわけではない?

いや、まぁ新聞をメインで、テレビとかを練習で受けてた。練習っていうか慣れるために。

Q:テレビで受けたのってだいたいどこですか?

1社以外は出した気がする、一応全部。その1社はなんか間に合わなかったっていうか、もうめんどくさくてやめたっていう。そんなに報道に力入れてるわけでもないし、あそこは。

Q:テレビでは、上の方の面接まで行きました?

いや、行ってないな。テレビは全然だめだった。

Q:やっぱ競争率激しいんですね。

競争率激しいし、俺テレビそんなに見てないし、全然興味も熱意もないから。当然のごとく、伝わるわけでもなく。まぁエントリーシートは全部通ったけど、面接は全部落ちた(笑)。

もともとテレビよりは、新聞で文章で書きたいという思いがあった

Q:一次面接行った企業、約10社って?

テレビも含めてか。えっと、B社、C社、D社、E社・・・。一応F社も行ったかな、一次面接までは。で、あと新聞が4つ、それぐらいかな。・・・なんかもう一個抜けてる気がするんだけど、そんなもんかなぁ。

Q :まあ約10社受けて、テレビは合わなかったから、すぐ落ちた?

うん。

Q:でも、テレビも報道関係ってあるんですよね?

うん、報道部門はあるけど、できれば文章でやりたかったっていうのが・・・。うーん、あと自分の書いた原稿がアナウンサーとかに読まれるのが嫌だったってのは、なんとなくあった。

新聞社は練習もかねてたくさん受けた。新聞の最終面接は4次か5次くらい。

Q:新聞社はどこ受けました?

うーん、・・・面接にちゃんと行ったのはA社(全国)とG社(地方)、H社(地方)くらいかな。出したのはA社、I社(全国)、J社(全国)、K社(全国)、I社(全国)、L社(全国)、M社(地方)、G社(地方)、H社(地方)か。H(地方)はね、ちょっと募集が早かったから。それも練習みたいな感じで受けて。

Q:地方紙でもかまわないと思っていた?

うんうん。

Q:その中で、特に行きたかったとこはどこ?

今のところと、いくつかあるけど、あとA社は、結構知り合いがいたから。

Q:二次面接以上に行ったのって、何社ですか?

4社かな。

Q:だいたい何次で決まるんですか?新聞って。

4か5くらい。かな?でも、それくらいか。

Q:最後まで残ってたところで、今のところ以外はあります?

H社(地方)がなぜか残ってた、最終。なぜか、なんかよく分かんないけど、通って(笑)。

Q:フィーリングがあってたんじゃないんですか?

でももう今のところに通ったから、蹴ったというか断った。

Q:向こうはちょっとさみしかったかもしれないですね。

まぁしょうがないよね。

就活が終わった時期は4月末

Q:就活始めた時期は、普通にみんなと同じ時期に始めてました?

うんうん、ほとんどそうだと思う。でも夏にね、3年の夏にA社でインターンをしたなぁ。それが多分はじまりだと思う。

Q:今のところに決まったのはいつ頃ですか?

4月の下旬だと思う。

Q:そこで決まったから、やめようと思った?

「はい、もう終わり、以上~」って(笑)。やった!GWちゃんと休めるって思ったから。いや、もともと行きたかったのがそことA社だったからなぁ。

第一志望だったとこでも、話が合わなくてだめだった企業があった

Q:A社はなんでだめやったんですか?いつのとき?

多分、最終の一個前でだめだったなぁ。なんか面接しながら、ああなんかだめだなぁ、合わねーなーと思ったから。やりながら。

Q:なんかゴリゴリした感じなんですか?A社。

いや、そんなことはないけど。面接官の言ってることが良くわかんなかったっていう。

Q:そいつと合わなかったってこと?

そう、なに言ってんだこいつ、何言ってるかわっかんねーけど?、みたいな。

面接での話題について:新聞は、自己アピールがないから良かった

Q:面接で、自己アピールってあるじゃないですか。得意のネタは?

自己アピールか(笑)。いや俺ね、自己アピールしろって言われてない、新聞社って自己アピールないんだよね。

Q:自己アピールないんですか?

ないないない。自己PRとかないからさ。

Q:じゃあ、どんなこと聞かれるんですか?

淡々と、大学時代にやってたこととか、志望した理由とか、最近関心のある分野とかニュースとかっていう話だから。いわゆる30秒とか1分間で自分をPRしなさいっていうのはないから。それは素晴らしいよね。大っ嫌いだからあれ(笑)。

Q:自己アピールはない方がいい?

ない方がいい。ばかばかしい。

面接での話題について:「大学時代にしてたこと」は、バイトの話から問題意識を

Q:「大学時代何してましたか?」っていう質問に対しては、何を言ってたんですか?

いや、「バスケやってました、ダイビングもやってました」、あと病院で夜間の事務のバイトやってたからそれも話をしたし。

Q:それってどういう話になるんですか?

どういう話かぁ・・・でも圧倒的に病院の話が多かったかな。なんでそのバイトを始めたかとか。

Q:そこで思ったこととか?

じゃあ救急医療は何が問題なの、みたいなこととか。

Q:結構、社会問題的な感じのことを言ってた?

向こうはそれしか聞かないからさ。こっちはもうそれしか答えようがないからね。

Q:バスケのサークルの話題を聞かれたら、話そうと思ってたネタはあった?

ネタは、そんなでもない。聞かれて、じゃあ俺はこんなすごいことやったってのは別にないしな。普通にちゃんと練習をして試合をやって。まぁ合宿の幹事とかはやってたから、そういう話で結構、中心となってやってましたみたいな話は聞かれればしたし、別に聞かれなければしない。

Q:じゃあ病院のバイトではどんなことを学んだとか思ったとか?

いやぁ、まぁ救急医療はだめだなぁとかって思いながら。いやなんか、あの頃ね、たらい回しがちょうど社会問題に結構取り上げられてて。いや、お前ら、たらい回しっていうけど病院にも限界があるんだよっていうのを現場で俺は分かったし、それをよく言ってたな。たらい回しっていうなっていうのを言ってた気がする。

Q :報道関係の面接には適切な話ですよね。

そう、すごいタイミングが良かったんだよね。話しやすかった。

今勤めている企業の面接官の印象

Q:「特に我が社が良いと思ったのはなぜですか?」みたいなことについては?

あー、なんでだろう、そこがね、俺あんま聞かれなかったんだよね。一応書くところがあったから、なんかいろいろ書いたけど、そこそこ自分なりのテーマを探せば、自由にできるのかなと思いました、ぐらいの話で。

Q:そこの企業の面接官ってどんな感じなんですか?

あのね、威圧的だから彼らは。基本的にリアクションが薄い(笑)。フーンぐらいの感じ。あんま笑わないからさ。いわゆる圧迫というか、リアクションが薄い、関心が薄い、話しづらいタイプの。

Q:圧迫じゃないけど関心薄い?それは嫌ですね。それってわざとやってるんですか?

まぁ、わざともあると思うし。うん。笑わないんだよね。

自分に在日の血筋があると言ったときのリアクション

Q:在日ってことを言ったら(書いたら)、どう聞かれたんですか?「そういう関係の人なの?」って聞かれたの?

いや、なんか、あっそうなんだ、在日なんだ、みたいな、ぐらいの話だったなぁ~。

Q:でも半分だけだって書いてたんですよね?

まぁ父方の家系がとは書いたし。

Q:そういう「在日の人なんだ?」みたいな聞き方されたんですか?

別にそんな差別的なあれではなく、ただ単純に、「あっそうなんだ、君は」みたいな。

Q:で、なんて答えました?

そうですって。父方の家系が、そっちの血が入ってます、って。それが何か?みたいな。

Q:(在日についての新聞記事を話題にして)自分の考えを伝えるための話題として、話したってことですよね?

まぁ戦略的なものもあったけどね。ある程度、他と差別化をはかるためには、多少そういうところに踏み込んで話した方が、まぁ。印象にも残るし、自分の幅として見せられるとは思ったし。

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